自動化こぼれ話(188)掴んだら放すな

山梨大学名誉教授 牧野 洋

プレスの2次加工などで、「掴んだら放すな」ということがよく言われる。打ち抜きや成形などの1次加工の終わった部品の一部を折り曲げたり、あるいはそこへ小さな部品をかしめたりする場合に、部品を持ち替えたり、あるいは、ばらばらにして供給し直したりしてはいけない、というのである。何故か? それはそのことによって精度を悪くするからである。

一般的な打抜加工の場合を考えてみよう。打ち抜かれる部品(こちらの方が必要な部品であるとしよう)は打抜かれる瞬間にはその部品としての空間的な位置と姿勢(向き)を持っている。位置が3自由度、姿勢が3自由度である。この6自由度を合わせてローカルフレーム(局所座標系)と呼ぶことにする。このローカルフレームは打抜かれる瞬間に金型から転写される。この時には既知である。

ところが、もし、この部品を箱の中に落として集めるとすると、その間に部品に固有のローカルフレームはさまざまに変化することになる。自由落下中にもさまざまに変化するし、底に落ちてからもどうなるか分らない。次にこの部品を何かに利用しようとするときには、このローカルフレームを見出して、位置決めをしなければならない。

そこでプレス加工の場合には、つながったままで打抜くのが良いとされている。これも「掴んだら放すな」の例である。

組立加工の場合にも、チャックで掴んだり、放したりする回数はできるだけ減らさなければならない。