自動化こぼれ話(183)三つまみ半

山梨大学名誉教授 牧野 洋

子供の頃、土瓶に入れる茶の葉の量について母親に訊ねたことがある。母は即座に「三つまみ半」と答えた。その時には納得してその通りにしたが、今考えてみると、これは答えになっているようでなっていない。

第一に、一口に「土瓶」と言っても、大きさはいろいろあるだろう。入っているお湯の量や温度もまちまちに違いない。それに対して、入れる茶の葉の量も、「一つまみ」とは一体どのぐらいか? 何グラムを言うのか? 茶の葉にもいろいろな種類があるだろうし、濃く出るお茶も、出の悪いお茶もあるだろう。こうした定量化できない量を定量化できない量で割り算して、それで答えが出るのだろうか?

そこにおまけに「半」というのが付いている。「半」とは何か? これは0.5ということではない。「とりあえず、3回つまんで入れてみて、多いかなと思ったら少なめに、少ないと思ったら多い目に足しなさい」ということなのである。

うーむ、この微妙さ。これが茶の湯の極意なのかも知れない。母は茶道の師範であったから、このような作法も教則本のどこかに書いてあるのであろう。そして弟子たちは、納得するとしないとにかかわらず、最適化技術を学んでいくのである。それが日本式のやり方である。

それを計量カップに3.5杯とするようなやり方では、うまくいかない場合もあるのではないか。