自動化こぼれ話(167)人間のスキルと機械のスキル

山梨大学名誉教授 牧野 洋

人間と共生するロボットでは、人間の持っているスキル(skill, 巧み技)をいかにうまく生かすかがポイントであると言われている。

たとえば、配線作業があるとしよう。これを人間は目と手と頭を使いながら器用にこなす。だから、そこの所は人間に任せて、機械は他の所をやろうという考え方がある。

だが、これは少しおかしいのではないだろうか? 人間のやっていた作業は人間に任せるというのでは、自動化はいつまでたってもできない。そういう安易な考え方が十数年間の自動化の空洞化を生んだ。

ロボットはそうした人間の持つスキルを機械において実現させるために生まれてきた。ここでは、人間の持つ構造のスキルを機構に置き換え、操作のスキルを制御に置き換えて、機械のスキルを実現しようとする。すなわち、機構の複雑さと制御の妥当さが機械のスキルである。

機構の構成と自由度の多さにおいてはロボットは人間に及ばないかもしれない。人間の手は片腕だけで27の自由度を持つと言われている。これを機械で実現するのは容易ではない。しかし、人間の手だけが神の手のように思うのは誤まりであって、仕事の目的によって、それに適した構成が有り得る。ロボットはそれを実現したい。

制御はどうだろうか? 機械の制御は数式化され、最適化されているのが特徴である。予測されていないことに対する反応はまずいかも知れないが、その代わり、予測できる条件に対しては一様な、優れた結果を導き出すことができる。予測できる条件の巾を広げればよいのである。  こうした機械のスキルを生かしてロボットを作りたいものだと思っている。