自動化こぼれ話(166)設計部隊

山梨大学名誉教授 牧野 洋

ある会社が自動化にどのくらい熱意を持っていて、その自動化が成功しそうであるかどうかを見極めるのは、そんなに難しいことではない。その会社に設計部隊があるかどうかをチェックすれば良い。

例えば、私が訪問したことのある小さな電器会社では、「自動組立をやりたい」と言いながら、自動機の図面を描けるエンジニアは一人もいなかった。自動機を発注するにしても、その計画書を書ける人も一人もいなかった。

「仕方がない。人減らしをやりたいのなら、まず、人を増やして、機械屋を採用するのですね。」と私は言ったものである。

それに対して、自動化の進んでいるところ、例えば幾つかの自動車部品メーカや、精密機械メーカには、社内設備を設計・製作する部門があって、そこにはびっくりするぐらいの数の人がいて、社内向けの専用機を作っているのである。

ここで、「専用機」と言っているのは、自社の製品を専門に作る、という意味であって、一種類の製品だけを作るという意味ではない。製品の多様化にともなって、フレキシビリティのない機械は使われなくなり、汎用性のあるロボット化が進行している。

製品というのは、多くの場合「特殊な」製品であって、これを加工する機械が市場に出回っているという場合はほとんどない。とくに新しく開発された製品の場合には、これを作る方法からして考え出さなければならない。そうして、その方法による製造機械を開発する。これは、その製品に詳しい、その会社の中でやるべきことなのである。そこで、冒頭に述べた設計部隊が登場することになる。

30年ほど前には、この設計部の部屋にはドラフターが林立し、そこからさほど離れていない空間には、やや大きめのテーブルとこれを囲む幾つかの椅子があって、そのテーブルの上に図面を拡げて、グループによる検討が行われたものである。

現在、ドラフターはCADに置き換わり、それを操作しているのは社外工である。グループ討議はいつの間にか行われなくなり、個人主義の中に埋没してしまっている。それで良いのだろうか? 設計の神様はどこへ行ったのか? 「神様」と言われるような設計の熟練者をどうやって育てるのか?