自動化こぼれ話(165)精密工学ボトルキャップ論

山梨大学名誉教授 牧野 洋

「精密工学とは何か?」と訊かれて、ハタと困った。精密工学科を卒業し、長いこと精密工学科の教授をしていたのに、精密工学とは何かの説明ができない。これでは困る。一週間考えた末に出てきた結論は、精密工学とはペットボトルのキャップである、というものである。

ペットボトルのお茶を一口飲み、キャップを締める。ボトルを逆さまにする。お茶はこぼれない。振ってみる。それでもお茶はこぼれない。他のペットボトルについていたキャップを取って、付け換えてみる。逆さまにしても、振ってみても、お茶はこぼれない。それが当り前?‐‐‐なのだろうか?

このようなキャップを作ること‐‐‐それが精密工学である、というのが私の結論である。しっくりとはまり合って液を漏らさない、そのためには、キャップを鋳込む金型の精度は非常に高いものが要求される。おそらく2〜3ミクロン、あるいは、部分的には1ミクロン以下の、精度の高い(精密な!)加工や計測が必要となる。そのためには切削力による工作機械の撓みや、温度による金型の変形も考慮しなければならないだろう。製品設計も問題になるだろう。ねじは何山が適当か?ねじ山の形は?ねじの切り始め、切り終わりの逃げの形は?

異なるペットボトルメーカー間でのキャップの互換性までも必要であるとすれば、何らかの規格化、標準化が必要だろう。外国に輸出するとすれば、その国の法律も関係するかも知れない。それも精密工学の仕事か?そうしたことも、結局はものづくりの技術にはね返ってくるので、精密工学と無縁ではない。

お茶を入れる茶碗と、ペットボトルとの間には要求仕様の差がある。そして、それを可能にするのが精密工学の役割だと言えるであろう。