自動化こぼれ話(159)ジャガード織り

山梨大学名誉教授 牧野 洋

何気なしにテレビを見ていたら、群馬県桐生市ののこぎり屋根の話になった。織物工場である。織機が映る。
「あ、ジャガード!」
と、思わず声が出た。ジャガード織り機である。なぜジャガードだと分ったかというと、板紙のベルトが見えたからである。

九十九折りになった板紙がほぐれて上に登っていく。この板紙には多数の穴が空いていて、機械は1行ごとに何列目の穴があいているか(1)いないか(0)を判定して、その列の縦糸を選択するのである。こうして、いろいろな色の組み合わせで美しい柄の布が織り込まれていく。テレビの映像では、横糸に金糸・銀糸が使われて、豪華な着物の帯が織られていたのであった。

この板紙は、コンピュータに使われたパンチカードのオリジナルとして知られている。電子計算機の入力メディアとしてそれまで使われていた穴あきテープに代わって、パンチカードをIBMが採用し、これが一世を風靡した。はがきをやや横長にした程度の大きさの、80コラムのこのパンチカードには、我々はさんざんお世話になったものである。

それから40数年。0か1かのディジタル技術はますます発展して、コンピュータは我々の生活になくてはならないものになった。そして、織り機における色糸の選択も、パソコンでやられるようになった、と思っていたら、ジャガードがまだ現役で動いていたので、それで感激したわけである。

なお、横糸の送りに使われていた「シャートル」(アナウンサーはそう発音した)は、英語ではshuttle、日本語では「杼(ひ)」であり、横糸を中に入れて、高速で左右に往復させる道具をいう。この方はスペースシャトルの語源になっている。飛行機でも、あちこちにシャトル便が飛んでいる。だから、「シャトル」と言って欲しかった。