自動化こぼれ話(146)海外進出の時代は終わった

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 (2004年)8月20日付けの日本経済新聞に、キヤノンの御手洗社長が「組立ラインを無人化せよ」という号令を出したという記事が出た。

 精機学会の中に自動組立専門委員会(現精密工学会生産自動化専門委員会)を作り、さらに、自動組立懇話会(現自動化推進協会)を作って、自動組立を推進してきた我々としては久し振りに聞く言葉だ。

 バブルがはじけてからの10年(「失われた10年」と言われている)は、製造業にとっては苦難の時代であった。僅かな為替変動によって製造業が営々として積み上げてきたコストダウンの利益が一瞬にして失われ、背面からは新進のアジア諸国が迫ってくる。この危機を脱出するには、人件費の安い海外へ進出するしか方法がないと思われていた。

 だが、ここ4,5年の間に少しずつ情勢が変化してきた。「ものづくり」の重要性が再認識され、日本の技術の優位性はどこにあるのかの議論がなされ始めている。キヤノンの方針はその延長上にある。人件費が20倍であるならば、その人件費をゼロにしよう。

 そのためには、金型を内製化し、効率的な製造設備を作り、先端技術の粋である部品の生産において他国の追随を許さないものにする。

 「ものづくりは技術の蓄積のある国内に踏みとどまってこそ競争力がつく。完成品組立はコスト面から中国への移転がやむを得ない場合があるが、死に物狂いで収益力を高め、できるだけの国内生産は残す」と同記事は締めくくっている。