大学における「自動化技術」の講義

首都大学東京 大学院理工学研究科属 本田 智(自動化推進理事)

日本はその昔、資源が少なく、海外から輸入した原材料を加工して製品を作り、その製品を海外に輸出することで、生活の糧を得ていた。そこには、日本人の器用さによる「製品を、安く、大量に、かつ、高品質に製造する技術」があった。しかし近年になり、経済摩擦により製品の現地生産が進み、また、グローバル化した企業は全世界で売れる製品を開発・製造・販売しなければ、会社が存続できない状況になっている。かつてのように、日本製というだけでは製品は売れず、世界に通用するオリジナルな製品の開発が求められている。

さて、生産工場が海外に移り、かつ、世界に通用するオリジナルな新製品を次々と開発しなければならない自動化技術者は、「自動化技術」を、どこで学び、また、どこで、その技術を磨いていったのでしょうか? 

私が機械工学の大学生であった頃を思い出すと、その当時「メカトロニクス」という講義はなく、「機構学」でリンクやカムを学び、「電気機器学」でモータの構造を学び、「自動制御」で油圧サーボやシーケンス制御を学びました。そして、卒業研究でロボットハンドの研究に携わり、そこで初めて、DCサーボモータやエンコーダ、PWM方式のモータドライバーを知り、さらに、パソコンとモータドライバーをつなげるインターフェース回路を自作することで、メカトロニクスを学んできたように思います。学会でも「ロボット」や「FMS」などのセッションが多く開かれ、それを聴講していたことも記憶しています。今改めて考えてみると、「自動化技術」は、自動洗濯機のように、その製品を自動で動かす技術であり、製品を自動で生産する技術でもあり、これらは非常に広範な技術を複合した技術である思われます。

すると諸先輩方は、「メカトロニクス」として、まとめられた知識を学んだ訳ではなく、様々な知識を「自動化技術」として統合し、実際の製品を設計・製造しながら、また自動生産ラインを構築しながら、技術を磨いていったのではないかと思っています。

現在、大学では「メカトロニクス」という講義が開講されていますが、これを教えるためには、広範な知識と実際に製品を設計・製造した経験が必要であり、これが無い大学の教員には手に負えず、多くの大学では企業の技術者の方に講師をお願いしているのが現状です。すると、団塊の世代の技術者が退職され、企業内で「自動化技術」の伝承が難しくなり、大学でも「メカトロニクス」の講義が開講できなくなると、日本のものづくり・海外工場のものづくりを担う技術者がいなくなり、今後数十年の内に「自動化技術」が、『骨董の陶磁器のように、絵付けの技法がわからなくなってしまった』ような、忘れ去られた技術になってしまうのではないかと危惧しています。そして、この対策に有効なものが、本協会で開催している「自動化技術基礎講座」「メカトロニクス技術認定試験」であることを改めて実感した次第です。