からくりは簡便自動化

滝川 洋(自動化推進協会理事)

私達の住む石川県には、奇妙キテレツなからくりの世界をテーマにした、全国でも数少ない施設「石川県金沢港大野からくり記念館」があります。江戸時代末期、加賀のからくり師大野弁吉(1801年〜1870年)が手がけた技術を中心に多種多様な作品が展示されております。私が幼い頃、ぜんまい仕掛けの玩具に興味を持ち、更に高度なからくり人形を知り、その動きがどの様になっているのか強い関心を持ったものでした。私が合理化設備に携わり電子回路組立用のコンベアを先輩の方々に製作して頂きました。モータ・ギヤ・カムの組み合わせによる、搬送用送り出し機構との出会いです。モータ・チェーン搬送が当たり前の時代に、安価で確実な動作のギヤ・カムというシンプルな機構に感銘を受けたものです。

この時にからくり人形の機構を思い出し、スピードの可変はリングコーンモータで制御し、カムを使って回転を直線の駆動の動きに変えるメカニズムが理解出来ました。

今回のタイトル「からくりは簡便自動化」はこのような背景があります。今から考えれば35年以上前の事ですから、実装技術も部品の形状がディスクリート・ラジアルであり、少品種大量生産の時代でした。今日の高集積化された半導体を中心とした、SMT実装の現代とは組立工法そのものが大きく異なることを考慮すると、参考にはならないという議論は起こると思います。

しかし、物造りの原点とはなんだろうかを考える時、私の個人的意見として言わせてもらえるならば、諸先輩から教えて頂いた原理、原則を振り返り、探究する心が必要ではないかと思います。

「このような合理化設備が出来たらいいなあー」という夢を描きポンチ絵に置き換え、実現可能な知識・技術の探り出しを行い、実現するという行為が少なくなっているのではないでしょうか。自動化推進2014vol43No.4にカム機構に関する専門的な技術が掲載されていました。我々が日々生産に使うチップマウンターにも多用されています。

からくりは古代中国の指南車に見られるように、歯車の組み合わせによるものです。その技術を日本では、風習や文化に取り込まれ、独自の発展をとげたものであり、オートマータといわれる西洋の自動人形は、時計技術の発達とは表裏一体です。その金属の製造と加工技術を背景に、精巧さを求めて発達進化をしてまいりました。

日本のからくり人形はその点で遅れながらも、引く糸の弛みを利用するなど、日本独自のからくりを完成させました。台付からくりは、カムや滑車によって糸が引かれ動くものです。茶運び人形は西洋時計の技術を活用し、内部ゼンマイ動力と歯車と梃子のメカニズムによるものである。したがって、私はからくりこそ簡便自動化であると申す所以である。

2015年3月北陸新幹線、東京・金沢間が2時間半弱でつながります。是非一度「大野からくり記念館」をご覧いただきたいと思います。