マイクロマシン(MEMS)製造の自動化

首都大学東京 大学院理工学研究科 本田 智

 本号では,新しい主要な生産財となるであろうマイクロマシンについて,私の研究テーマも含め,紹介させていただきたい.

 マイクロマシンは,1966年に製作された,映画「ミクロの決死圏」の中で極小の潜水艇が映像化されて以来,精密機械技術者がその製作を目指す夢の機械の一つであり,その学術的研究は,1980年台後半に半導体製造装置を用いて超小型歯車が製作されたことから始まり,現在,多くの研究が行われている.そして現在では,“大きさが極小で,かつ,ある機能を果たすもの”であれば,それら全てをMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼び,大きさが数mmの流量センサーやゲーム機のワイヤレスコントローラに内蔵された加速度計などがMEMS製品として市販されている.しかし,ルロー(Franz Reuleaux)による機械の定義では,機械とは(1)複数の部品で構成され,(2)その部品はその部品に作用する力に耐える強度を持ち,(3)部品同士が相対的に運動し,(4) 外部からのエネルギーで部品が動かされ,その部品の運動によって外部に有用な仕事(力×距離)を出力するものであり,上記のMEMS製品は,複数の部品で構成されてはいるが部品が相対的に運動しないものや,外部からの振動エネルギーによって部品が振動し,その振動を検出することはできるが,外部に仕事を出力しないものなど,通常の大きさの世界における機械の定義に当てはまらないものが多い.また,通常の大きさの世界における機械要素を寸法的に縮小しただけでは,部品間の摺動面の摩擦により,部品が運動しないことが推測され,小さな世界で同じ機能を果たす機械を実現するためには何らかの工夫が必要である.そして,学問的には,小さな世界における機械とその部品の特性解析や新しい工夫の考案・試作,および,マイクロマシンの定義の検討が行われ,産業界では理論はどうであれ,マイクロマシンの開発は,「人類が今までに,見たことも/想像したことがない,全く新しい製品を創造できる」という大きな期待の下で,製品開発が行われている.しかし,今までに開発されたマイクロマシン製造法は,@半導体製造装置やALIGAプロセスを用いる方法,B超精密研削盤を用いる方法などであり,製造装置が高価で大掛かりであるため,研究も製品開発も飛躍的に進展する状況にはなく,「ブレークスルー」をもたらす第4の製造法の開発が求められている.そこで,著者は,線経が50μm以下の超極細ワイヤーを用いたマイクロ部品製作法を考案し,図中のマイクロねじ/ナット/歯車の試作に成功している. 会員の皆様には,今後,マイクロマシンの開発に目を留めていただき,マイクロマシンを自動製造できる技術の考案に助言をいただければと考えています.