メカトロニクス・ロボット分野の中核人材育成事業<

社団法人 日本機械学会
イノベーションセンター
技術者教育委員長 田口裕也

 「リーマンショック」に発した世界規模の経済不況に見舞われた我が国の産業界は、いち早く人員削減、経費節約および生産調整の緊急対応を実施した。その結果、研究開発や人材育成等に対する投資が著しく抑えられる傾向にあるが、一方では、こういう時こそ次期に備えて人材育成を強化し、採用活動に努める元気のある中堅・中小企業も現れている。
 日本機械学会は、講演・講習会、調査研究、出版および海外事業などの活動に加えて、イノベーションセンターを発足させ技術者教育・人材育成にも力を入れている。
 また、社会に開かれた学会としての活動も強化しており、創立110周年(2007年8月)記念事業の一環として、「機械の日」の制定や、歴史に残る機械技術関連遺産の「機械遺産」としての認定などを実施している。(図1)


図1.日本機械学会認定の「機械遺産」の例

 また、イノベーションセンターでは、機械状態監視診断技術者認証事業および計算力学技術者(CAE技術者)資格認定事業を推進中で認定者総数は、夫々2,000名を超えており、今後資格更新時におけるCPDポイントの活用など、継続教育と技術者資格認定のシナジー効果も出つつあり、本資格の社会的な認知度・価値を一層高めて行きたい。

1.中核人材育成事業とは

 昨今の経済不況を踏まえて、今こそ次の世代へ向けて技術の伝承と今後の製造現場で中核的役割を担ってゆく技術者の人材育成が喫緊の課題となっている。  この解決策として、産業界と高等教育機関が連携することにより、製造現場の人材育成において革新的な役割を果たす「産学連携人材育成事業」(経済産業省)がスタートし、日本機械学会は、3年前からこの事業を管理法人として受託した。(図2)


図2.経済産業省 産学連携製造中核人材育成事業

2.学会機能を生かした人材育成の新たな取組み

 このプロジェクトの推進に当っては、学会が擁する幅の広い会員層、ロボティクス・メカトロニクス部門をはじめ全国の支部との連携が可能で、学会機能を生かした人材育成の新たな仕組みが構築でき,次のような成果が得られた。

@地域連携と協力企業支援による「メカトロニクス・ロボット分野」の幅広いテキストメニュー(68冊)と実践的講座(87講座、受講者956名)を開発した。

Aモノづくり人材育成コンシェルジュの確立
一流ホテルのコンシェルジュサービスを本プロジェクトにも導入し、積極的な企業訪問(493社)で地域企業と大学の橋渡しを行い、受講者派遣を促した。

B人的ネットワークの構築(地域人材育成会議)
本事業がきっかけとなって発足した川越地域中核人材育成推進協議会などの地域連携(産業界、商工会議所、自治体等)の組織は、受講者派遣や講座開発などで有効な仕掛けであることが実証された。

C顕彰制度:「実践的教育のために研修所を提供された企業」並び「受講者派遣企業」等を顕彰した。

3.まとめ

 「人材育成」は、一日して成らず。桃・栗3年 人材育成8〜10年であり、今仕込まなければ将来の我が国の産業の死活問題となる。人材育成の証ともなる技術者の技術レベルの品質保証は、グローバル化に対処するために益々重要であり、技術者の資格・技術認定を有する自社の技術者を擁し、技術者が資格取得し易い環境作りに投資をしなければ、仕事が回ってこない時代が来るに違いない。その時に備えて、技術者の資格・技術認定の重要性を認識し、有資格技術者が高く処遇を受ける社会システム構築のために、学協会への期待と責務が益々増大していると思う。