自動化技術で発想した「ポキポキモータ」

三菱電機(株)生産技術センター製造技術推進部 部長
NPO自動化推進協会理事
中原 裕治

 1993年、情報機器(FDD)の薄型化競争に対応するため、ディスク回転用モータの開発がスタートした。事業部の計画では、短冊状の鉄心に巻線して、基板上に並べて直接半田付けする案だった。鉄心をバラバラにすれば、巻線は大変に楽になる。だが、自動化技術の観点からは、部品点数が増え、コイル線の接続点が増え、作りやすいとは言い難い。当時の設計課長と何気なくモータの駆動原理を話している時、丸い鉄心を直線状に広げて巻線して、巻線後「ポキポキ」と折り曲げて丸くする方法を思いついた。翌年、自動巻線機を自社開発し量産導入した。直線状の鉄心4つを4段並列にチャックし、UVWの3相を同時巻きするため12本の巻線ノズルを直線状鉄心に対向させた。巻線ノズルをカム駆動(1200rpm)し、直交3軸ロボットの先端に搭載した。シンプルかつ生産性のよい自動機となった。

 1995年、FA機器用ACサーボモータ(出力10W〜7kW)にポキポキモータが適用され、小型高出力化と低コギングトルク化を実現した。その後、直線状鉄心は、逆反り状鉄心や関節状鉄心に進化して、家電(エアコン)や自動車機器(パワステ、バルブ)やエレベータ(巻上機)に適用され、製品の省エネ高効率化や軽薄短小化を実現した。

 さて、主題のポキポキモータの発想であるが、一言で言えば、自動化のイメージをアニメの如く思い浮かべながら、製品構造や製造法のあるべき姿をあれやこれやと執拗に考えた「拘りと粘り」だったと思う。社内マニュアルの生産設計法には部品点数削減の項目があり、バラバラにすることへの抵抗感があった。そこで、行き着いた答えが「バラバラのようでバラバラでない構造」だった。つまり、コイルを巻く部分は一見バラバラだが、それらが、薄肉部や関節部で連結されているので、コイルの渡り線を切らずに連続巻きでき、巻線後に鉄心を筒状に丸めて1箇所だけ溶接すればステータが完成するのである。

 かくしてポキポキモータの製品適用が決まり、装置専門メーカーの協力を得て自動ラインを開発するのだが、量産前になってトラブルが発覚するケースが多々あった。原因を追求すると、自動機自体の問題もあれば、鉄心金型に起因することや、装置仕様書では数値化できなかったことや、アイデアに浮かれて油断していたことなど様々にあった。その都度、チーム一丸となって解決するのだが、その過程で鉄心材や順送金型や樹脂成形等の知識がチーム仲間にどんどん増え、自動機の調整や修正で苦心した数々の経験が次のアイデア創出の糧になった。

 最近、ポキポキモータの開発プロジェクトを経験した若手の自動化技術者が、事業部のモータ設計者に対して奇抜なアイデアを提言する場面が増えた。自動化技術者のアイデアだから、ジグや実験機を自ら設計して、試作品を上手に手早く作ることができる。手抜きのお粗末な試作品だと、設計が悪いのか製造法が悪いのか判定できず、アイデアが不採用になってしまう。逆に、初回の試作品を精度よく作れば、モータ設計者の解析や計算値と試作評価の結果がよく一致し、開発は勢いを増して進むことになる。

 一般に、製品図面がほぼ決まり、装置仕様と納期を言い渡されてしまえば、自動化技術者は、組立基準や寸法公差を若干変更できても、製品構造をガラリと変えるチャンスはなくなる。ならば、自動化技術者は、開発の源流である製品企画や構想設計に能動的に身を突っ込み、製品機能の勉強と併せ、製造アイデアを数多く提案すべきである。そして、設計者や研究開発者に対して、製造現場を頻繁に歩かせて、製造技術を学ぶことを促すべきである。それら相互理解があれば、モータのような成熟製品であっても「ものづくり革新」が幾度でも起こせるように思う。

 私は1957年大阪に生まれ育った。小学時代は鉄人28号やサンダーバードに興じ憧れ、プラモデル隆盛期に無数に作っては壊した。高校と大学では鉄道模型を作り、社会人になってラジコンヘリを飛ばした。機械モノが好きで、自動化技術が仕事とは大変に幸せである。次々起こるトラブルとその解決にてんてこ舞いの日々を送っているが、仕事がどんどん自己増殖するのが楽しみだ。是非、若い人に「ものづくり」の苦楽や醍醐味を正確に伝え、自動化技術で成功する仲間を1人でも増やすことに尽力したいと思う。 最後に、1998年大河内記念賞を受賞し、生産技術者として大いに励みとなった。そして、製造イメージから「ポキポキ」と親しみを込めてネーミングしたこともよかった。