万博とロボット

自動化推進協会 会長
早稲田大学教授
菅野 重樹

 経済産業省(NEDO)が、2004年度予算において「次世代ロボット実用化プロジェクト」を実施することになり、3月25日まで公募が行なわれた。

 このプロジェクトは、ロボットの新しいマーケットを切り拓くために経産省が推進している「21世紀ロボットチャレンジプログラム」の一環と位置付けられている。具体的には、2005年に開催される愛知万博「愛・地球博」の会場において、開発したロボットの運用・デモンストレーション実験を行ない、そのマーケットの拡大可能性を探りつつ、産業競争力の強化を図ることを目的としている。

 急速な少子高齢化が進む21世紀においては、生活分野、公共分野、医療福祉分野、そして産業分野に至る広い場面で、人間の活動を支援するロボットへの期待が非常に大きい。これらの分野で有用なロボットを実現するためには、個々の要素技術の開発だけでなく、現実的な使用環境で十分に機能するシステムとしての完成度が不可欠である。そのために、実際的なロボットの評価、技術実証の場が求められていた。

 万博は、新しい技術について一般の人々を啓蒙する、あるいは一般の人々からの評価を受けるには絶好の場所である。多数のユニークなロボットが集合し、そこから新たなニーズの発掘、アプリケーションの可能性が生れることが期待されている。

 ところで、万博で思い出されるのは、1985年につくばで開催された科学万博である。私は当時、大学院博士課程の学生であった。私の恩師の故加藤一郎先生はお祭り好きで、ロボットのイベントというと積極的に参加したがられるため、我々はいつも懸命に止めていたのだが、さすがにつくば万博は規模が大きく、あっという間に飲み込まれてしまった。

 私が研究していたのは、鍵盤楽器演奏ロボットWABOT-2であるが、これは科学万博のテーマにぴったりであるということで、日本政府テーマ館の目玉に据えられてしまった。出展が決まったとき、WABOT-2の技術は完成していたわけではなく、まさに研究の真最中であった。そのころの大学の研究は、期限というものがなく常にマイペースであったが、突然に万博までに完成させなければならないという期限が生じ、研究室はたいへんなことになってしまった。

 しかし結果として、万博のおかげで研究は加速され、期日までにシステムを完成させることができ、私も学位を取得することができた。苦しくても大きな目標は、有意義な成果をあげる近道でもある。

 今回の愛知万博でも、たくさんのロボットの開発が加速され、これを機会にロボットの新しいマーケットが発見されることを願いたい。