自動化こぼれ話(131)古い生産設備

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 海外に進出する企業がよく古い生産設備を持っていく。これはその設備が余っていると言う理由にもよるが、初歩的な機械の方がこれから技術を覚える人には使いやすいだろうとの考え方による。

 ところがこの考え方は間違っている。新しい機械の方が使いやすいのである。

 ある発展途上国で、日本の進出企業の金型工場を見学したことがある。そこには従業員30人ぐらいの小さい工場で、日本人は3人しかいない。その3人のうち1人が現場で放電加工機を動かしているベテランの職長さんで、その機械を動かせるのは彼1人しかいないから、なかなか日本に返してやりたくてもできないのだという。

 見ると、その機械は紙テープ入力式のNC機械である。あまり最近では見かけない機械だ。NCはNCなのだが、パンチテープを作らなければならないので、図面を見てパ ンチテープを起こすのは、ちょっとやそっとの素人には出来ないという訳なのだ。

 その隣には、加工した形状を測定するための3次元測定機がある。この方法は最新鋭の機械で、平面なら3点、円筒なら5点、(だったかな)を当たると、その理論的な形状を即座に求める事ができる。実はこの機械を使っているのは、今年入社したばかりの現地の若い女の子で、3ヶ月の研修期間で使い方をマスターしてしまったのだと言う。

 この落差! 貴方はそれでも古い機械を持っていきますか? 後進国になればなるほど、最新鋭の機械を持っていかなければならない。

 それじゃあ古い機械はどうすのかって? そんなもの廃棄処分にしてしまえ! そんなものに未練を持っているから貴方の会社はなかなか浮かび上がれないのです。