自動化こぼれ話(125)図面レス組立

山梨大学名誉教授 牧野 洋

 図面レス加工が可能だとするならば、図面レス組立はもっと可能である。3ミリのねじと3ミリのねじ穴があれば、そのねじはそのねじ穴にねじ込むに決まっているし、ある形の出っ張りと、同じ形の凹みがあれば、この二つは組み合わされるに決まっている。部品が正確に加工されていれば、その上さらに組立図を正確に描く必要はほとんどどないといってよい。

 実際、量産工場では、図面を見ながら組立を行っている所はほとんどない。あるのは手順書だけで、ここに示されている図は、組立図というよりは分解図である。自動車の修理工場などでも、使っているのは組立図ではなくて分解図だ。その方が組立手順がよくわかるのである。

 組立図に関する一つの誤りは、それを多くの人が組み立てられた姿を示す図だと思っていることである。その役割は外形寸法図に任せればよい。組立図は組み立て方を示す図なのである。だから締結部品などを省略してはならないし、断面 をとって分かりやすく書かなければならない。どこが固定されており、どこがどう動くかを示さなければならない。

 動く、ということになれば、これはもう2次元の静止図形である図面よりは、アニメーションや映画の方がすぐれているに決まっている。だから、組立工程図としての組立図はだんだん廃れていくのではないだろうか。

 組立図が価値をもつのは、設計の段階であると思われる。頭の中に描かれている構造を、組立図を描きながら具現化していく。個々の部品の配置や相関関係などが、組立図の形で示される。そして、その組立図をもとに部品図が作られるという段取りになっていく。

 かくして、組立図は最初に一度だけ作られ、顧みられない存在となっていくのである。そんな図面がロッカーの中にごろごろしているのではないだろうか。