21世紀の組立

東京大学大学院工学系研究科
精密機械工学専攻 教授
(当協会名誉会長)
新井 民夫

 筆者は、大学に奉職する以前の約25年間の初期には、繊維等の化学合成関連企業で、後半は機械関連企業でお世話になり、それぞれ非常に貴重な経験をさせて頂いた。  化学合成関連企業では、エンジニアリング研究所の機械研究室で、化繊生産機械の自動化システムの研究開発を、また、機械関連企業では、自動車あるいは航空機部品の加工ならびに検査システムの自動化に関し、研究開発部門の管理職として数々の辛酸をなめる機会に遭遇した。これらは、ほぼ満足できる成果を得られたのは、すべて、当時の私の上司、あるいは部下諸氏の方々の献身的なご指導とご協力の賜物である。  これら波瀾万丈の研究開発経験の中でも、18年前に開発を行なった航空機の機体部品の超高速非破壊検査システムの開発は忘れ難い。

 このシステムは、多層(100ply程度)のFRPテープでレイアップ生産された3次元曲面の航空機の機体スキン(skin:表皮)で、FRPテープ接合層間に空隙(void)が発生し、応力集中による疲労破壊の要因となる欠陥が存在していないかの、非破壊検査を高速で自動検査を行なうものである。この装 置は、外国の旅客用航空機メーカと、1年に及ぶ毎月の日本 、外国と場所を交互させてのデザインレビューを重ね、試作開発を行なったものである。

 本機は、最大幅(6m×長さ18m×高さ2m)の航空機機体スキンを、同時5軸NCの超音波発振器側と、同じく同時5軸NCの受信機側の両ユニットの間に固定し、計10軸同時数値制御でスキャニングを行なうものであった。目標としたスキャニング速度と、発振器と受信器の対向位置精度は、サーボ制御される検査機の機体構造の理論的動特性解析に基づき設定したもので、目標とした速度であるmax. 46m/minと対向位置精度(姿勢を含む)±1mmを達成する事が出来た。

 当時、最新型の外国著名計測機器メーカのものが、遥かに小型機で2m/min.のスキャニング速度であった事を考えると、いかにリスクの大きな研究開発であったか、改めて身震いする次第である。

 このようにして研究開発の経験をしてきましたが、それらの関連業務を進めるときに、若い技術者とともに取組んできたわけですが、彼等の研究開発の効率を高める上での管理に役立てたノウハウも蓄積したので、稿をあらためて紹介するつもりでおります。