“人質、3ヵ月”……「自動組立機はユーザに納入してからも、3ヵ月くらいは納入先に人質として、設計者や調整者を派遣しなければならないほど、いろいろなトラブルがつきものであり、手離れが悪いものである」と、アトリエ・じゅん主宰の本田さんが以前、この設計室のコラムで書かれていたが、自動組立機はユーザに納入した後でさえこんな調子である。当然、完璧と思って設計したツーリングであっても、納入前の工場調整では、もっと多くのいろいろなトラブルが発生するのが常であり、各メーカさんとも、このトラブルシューティングに苦慮しているのが現状だと思います。
今回は、このトラブルシューティングのステージでの経験から、トラブルを最少におさえるために、設計者が心掛けなければいけない項目を選び“48章を書いてみたいと思います。
め 目でみたら、触れてみよ
…ツーリング設計を始めるとき、対象とする製品・部品をよく知る必要があることは、だれでもがあたりまえである、と思っていることである。
しかし、調整のステージでのトラブルを分析したとき、設計者のちょっとした調査不足が起因したトラブルが、案外多いことに気付いているでしょうか。設計者が設計時点で収集した情報や資料を、もう少し有効に使って設計していれば防げるトラプルは、結果的に相当多いのである。
“目で見たら、触れてみよ”触れてみよと言うことは、実際に自分で触れて組立ててみよと言うことの他に、よく観察してみよと言う意味も含めてある。百聞は一見にしかず、で目で見たらそれで十分なのかと言うと、見ただけではわからない部分は相当多いものである。ツーリング設計を行うとき、製品図面だけを頼って設計を進めていっても結果は想像できる。実際の製品を顕微鏡などでじっくり観察しながら、ピンセットで引っ掻いてみたり、つっついてみたり、振動を与えてみたりしながら、組立手順に従って、自分の手で触れながら組み立ててみることが大事である。このことにより、図面だけでは解らない相当な部分まで解る。例えば、チャックの基準面として考えていた面に、プラスチックのヒゲやゲートがあったり、プレスのカエリが思わぬ所にあったり、意外と大きかったり、部品のおちつき具合が不安定でちょっとした振動ではずれてしまったり、次に組む部品が変に接触すると基準ピンからはずれ易かったり、また、キズが簡単に付き易い材質であったり、変形し易かったり、例をあげればキリがない。
これらの事前情報があるのと無いので、ツーリング設計の内容が全く違ってくるのは言うまでもなく、ぜひ目で見たら、触れてみよの感覚で、持てる資料を徹底的に調べあげ、調整時のトラブルがほとんどない、すばらしいツーリング設計をめぎしてみて欲しいものです。
た 確かめてみることが早道
設計をしていて、この方法では確実性に欠けるのではないかとか、設計者自身が設計しながら、あやしいなと感じる部分がある。また、検図をしていても同様に感じる部分がある。こんな部分に、後で相当な確率でトラブルが発生するし、大改造を強いられるような大トラブルもひそんでいることが、経験的に言える。もっとも、設計時点では考えもつかなかったトラブルも全然ないとは言えないが、よく検討された図面ほど、トラブルの予知はできるものだと思う。この項では、この予知された部分を設計者がどのように扱ったらよいか、と言う問題についてふれてみる。 このような場面での設計者のタイプに、「だいじょうぶ、だいじょうぶ。失敗したら組み上がった時点で改造すればなんとかなるよ」と、どんどん設計を進め、製造でいろいろな問題を出す製造泣かせの人。まわりの先輩が、これで行けるからと言っ
ても聞き入れず、心配ばかりして設計が全然進まなくなる管理者泣かせの人、の両極端の人が案外多くいる。製造でトラブルを起こすことも、出図が遅れることも、納期遅延にとっては同罪である。もし、技術の神様が図面を書いたら、何も確かめなくてもトラブルはなかろう。また、逆に技術力の無い者が図面を書いたら、全て実物を作って確かめなくては、安心して次のステップになかなかいけないだろう。つまり、技術力は実物を作って確かめなくてもよい部分がどの程度か、を計る物差しである。
設計技術は過去の経験や知識を基に、いろいろ頭の中で解体したり、融合させたりして、新しい設計に対しこれは確かめなくてもうまくいくとか、これはあやしいとか、言うなれば、前記トラブルが予知された部分は、このあやしい部分であり、技術力の無い領域の問題である。技術の無いことをすなおに認めて、まずは確かめてみることをおすすめしたい。
しかし、簡単に確かめろと言われても、非常に時間が掛かったり、膨大なコストが掛かったりする場合もないわけではないが、ここで言いたいのは、1〜2日の確認実験や計算がめんどくさいと言う理由で確認を怠る設計者がいて、前記製造と管理者が泣くのである。「あやしいな」と感じたら、めんどくさがらずに確かめるのが早道である。
つ 作り直しが安いし早い。“手術の方が治りが早い”
新しいツーリングを行うとき、どうしてもうまく組めない、うまくチャッキングできない、うまく選別供給できない等、不具合がよく出る。 設計者は、自分の選定した方法を簡単にあきらめられない。調整者もメンツがある。この二人が
合意して取る対策は、なるべく部品を生かしてチョイ直しで、さらに調整していく方法である。この程度で直ってしまう問題もあるが、うまくいかずに時間ばかり過ぎ、納期遅延やコストオーバーになり大きな問題となってしまう場合も多い。
以前、ある人から聞いた話であるが、その人は長らく胃の調子が思わしくなく、ある日どうしても耐えられなくなって、医者へ行って検査を受けた。その結果は胃潰瘍と診断された。医者いわく「薬で治しますか、手術しますか」本人は当然、「薬でお願いします」と答えた。医者は、「薬で治す場合、会社に通いながらですと6カ月以上、入院して投薬して2ヵ月以上かかりますよ。手術をすれば20日程度ですよ」と言われ、本人、手術はやはりいやであり、また、2ヵ月も会社を休むわけにはいかないということで、6ヵ月の方法を選択したそうであり、今でも会うと、時々調子が悪いと言っては消化薬を飲んでいる。 人間と機械では当然、判断基準が違うが、少しいじった時点で、調整がうまくいかない原因が判ったら、対策品を思いきって作り直し(手術)た方が結果は確実に早いのである。
理屈で補足すれば、そもそもツーリングとは、いかに部品のバラツキを多く許容できる製品設計になっているかとか、部品の寸法バラツキがどの程度なのか、ツーリング治具が部品に対しては許容が大きく、製品組立にはバラツキをいかに抑えるかとか言う、バラツキの世界の技術であると思う。 トラブルが生じたと言うことは、設計の思惑に何らかが原因として関与して、思惑どおりにならなかったのであり、まちがった考えで設計をしたものの上に別の部品をベタベタ付けていっても、バラツキだけが大きくなるだけで、原因が判ったらそれに対応した新規設計思想での対応が必要だと言うことである。しかし、チョイ直しと比べると、思いきった対策はコスト高になるのではと、反論される方もいらっしゃると思うが、コストについて論じれば、部品または、ユニットまた、装置を人間の目で見てそのコストは、ハードの部分はわかりやすいが、ソフト(調整)の方はわかりにくい。1日調整していれば、3万円のチャックも当然、倍以上のコストになるのであり、決してチョイ直しは安くないのである。ましてや、不具合が起きたとき、2〜3週間調整に手間どる例はいくらでも経験があると思う。50万や100万位の手術代(作り直し代)は安いのである。けちらずに思いきった改造の方が、安いし早いのである。
執筆者………編集委員会・設計室グループ(自動化推進88-5)
●本号執筆者:西郷達治
セイコー電子工業叶カ産技術部
製造試作課課長
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